教えて苫米地先生「AIの世界について、素人があーだこーだ言うのはまだ早い!」
2025/6/30 更新
日々進化する知能。生産性や創造性をサポートする能力。人間の仕事を奪う脅威か、未来を拓く希望か――。
果たして、どれが「本当のAI」の姿なのでしょうか。
多くの人がAIという言葉を漠然と使いながらも、その実態を正確に捉えることは容易ではありません。
巷では連日AIに関する議論が交わされ、「AIを知らないと社会から置き去りにされる」という圧力が、私たちの社会を覆っています。
そんな中、ドクターははっきりと語ります。
「AIの世界について、素人があーだこーだ言うのはまだ早い!」と。
そして、現在世間でAIと呼ばれているものの多くは、ごく一部の「生成AI」に過ぎず、その本質を理解しない「AI演奏家」とでも呼ぶべき人々が、表面的な議論を繰り広げているにすぎないと指摘します。
では、なぜ今、これほどまでにAIが過熱し、あたかもその全てが理解されているかのように語られてしまうのでしょうか。
技術の進化と社会の認識の間に存在する、この大きな隔たりはどこから生まれるのでしょうか。
そして、AIに「倫理」を求める現代の動きは、本当に理にかなっているのでしょうか。
今回の講義では、「AIとは何か」「誰が真にAIを語るべきなのか」という核心に迫りながら、科学技術の歴史、メディアの煽動、そして人間がAIに投影する願望と誤解に至るまで、深く掘り下げていきます。
AIと共存する未来とはどんなものか――。
本当のAIの姿を見極めるための視座がここにあります。
Vol.1 AIの専門家は存在するのか?
――今、AIを知らないと世界から置き去りにされる、ビジネスでもうまくいかなくなる、といったAIスキルの習得に対する圧が物凄いのですが、AIによって今後、一体どんな世界がやってくるのでしょうか?
苫米地 「どんな世界が来るか」という前に、皆さんが想像できるレベルで「AIとは何か?」を説明しないといけないよね。なぜなら、「AIとは何か?」が今、あまりにも適当だから。
――適当?
苫米地 要は、自分勝手に定義付けしてるってこと。そもそも「コンピューターが人々の役に立つっていうのはエンターテイメントになった時」。それは、東京大学生産技術研究所の原島文雄先生が言ってたことで、「エンジニアの仕事は50年後の人類のエンターテイメントを作ること」って言っていた。実際に原島先生とそのことを話したのは2000年ぐらいのことで、コンピューターがうまく動き始めたのって1950年ぐらいからだから、50年後っていうのはだいたい合ってる。なぜなら2000年ぐらいにコンピューターが絵のツールや音楽のツールになったでしょ?
――シンセサイザーの喜多郎とか。
苫米地 喜多郎は90年代ぐらいで、90年代はまだ素人が簡単に手に入れられる道具じゃなかった。そのあとぐらいからだよね、コンピューターがエンターテイメントのツールになってきたのは。いまだったらビジョンプロとかの3Dのメガネを使ってアートをやったりするじゃん。それがもう少し普及してくると、「あれは使いやすい」「これは良くない」みたいに、素人がいろいろ言えるようになってくるわけ。つまりアートになった時に、素人がコメントできる世界になるのね。ということは、AIは、まだ少し素人がコメントするのには早いってことだよ。
そもそもいまのAIの数学は80年代、90年代の、俺を含む研究者が全部作ったもの。当時はマシンが遅かったからうまくいかなかったけど、ジェフリー・ヒントンがやってきた10年後にはコンピューターが1万倍以上速くなっていたから、要はコンピューターが速くなっただけで、数学そのものは、俺たちがやっていたシグモイド関数。ジェフリーたちもいろいろやったけど、結局は、俺たちがやっていたシグモイド関数に戻ったから、根本は80年代、90年代と大差ない。それでもジェフリーはノーベル賞を取っているし、ChatGPTのサム・アルトマンもそう。俺は彼が生まれた年に生成AIを作っている(笑)。それを社会は知りもしないけど、一応はビッグビジネスになったということ。ということは、サム・アルトマンたちは、俺たち科学者から見れば、エンジニアなんだよ。エンジニアの仕事は、科学者の研究成果を利用して実用的なモノにすることでしょ。うちのフォートトークのほうが導入は早かったけど、OpenAIのソフトとかを使うと、誰でもヴィンセント・ヴァン・ゴッホ風の絵とかを描けちゃう。ただし、それがAIか? というと早計で、ユーザーインタフェースが素人に使えるようになっただけの話。中身はエンジニアもわかってないからね。
――でも、今、巷に、AIの専門家がいっぱいいますが。
苫米地 だからそれは、AIの専門家じゃなくてA I の利用法をもっと素人に教える専門家なのね。彼らにとって、AIのコアはブラックボックスなわけ。俺たちから見れば、サム・アルトマンですら間違いなくエンドユーザーだから。彼らはAIのコアなんて何もわかってないよ。でも、それでいいわけ。エンターテインメントの世界に進むって、そういうことだから。
わかりやすく言うと、オーディオの世界と同じような感じ、と思えばいいよ。90年代ぐらいのオーディオの世界。この時代のオーディオの世界は、バブルで儲けた普通の人たちがいっぱいいた。当時はジャズ喫茶みたいなものもあって、機材はどれがいい、あれがいい、とか、いっぱい言っていたわけ。そういう中で、特に凝り始めた人は、だいたい、まずはJBLのステレオを手に入れようとする。あのデカいのを6畳とかの部屋に入れる(笑)。それから、マランツやマッキントッシュを買って、スピーカーの高さは何センチがいい、とかやりだして、それで、オーディオ雑誌まで出来た。そうなるとメーカーも乗ってきて、金も出るようになって、あれがいい、これがいい、とかなってくるわけ。 だけど、そこで書いてるオーディオ雑誌のライターの人たちって、結局、エンドユーザーじゃん(笑)。オーディオにハマって機材を買って、ああだ、こうだ言ってるうちに詳しくなってライターになったり、雑誌の編集者になっていった人たち。彼らの言ってることって本当に正しいの?
(Vol.2に続く)
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