教えて!苫米地先生「世界の歴史の『作られ方』と『読み解き方』」
2020/5/26 更新
苫米地理論の基礎や世の中の重要な出来事や概念について、「今更聞けない......」なんていう素朴な疑問を、ドクターの出版企画に数多く携わるライターの中村カタブツ君氏が、ドクターに直接インタビュー&構成し、誰もが理解しやすいテキスト形式でお届けしているのが当講座です。
歴史とはなんなのか?
世界の歴史を語るとは、どういうことなのか?
今回の講義は、シンプルですが、簡単に説明がつかない「歴史」の定義とその作られ方について、ドクターとの問答が展開されます。
たとえば、「遺伝子」から人間の歴史を見ると、なにがわかるでしょうか?
本来であれば、人種のルーツが見えてくると思えますが、ドクターはそこから人類の変化や差異を読み取ることの脆弱性を説きます。遺伝子から歴史を読もうとするならば、「言語」に着目したほうが意味あるとも言います。
どういうことでしょうか。
さらに、「言語」に加えて、「宗教」という視点で歴史を見たらどうなるのか?
そこから最終的に見えてくるのは、権力者たちの「言い訳」であるとドクターは説きます。
どういうことでしょうか。
また、これまでの歴史は権力サイド=強者によって作られ、語り継がれたきたものでしたが、今はSNSなどで誰もが情報を発信、記録することができ、弱者の言葉も延々に残る時代です。
これによって、歴史の概念は確実に変わっていくというのです。
歴史とは、辞書には「人間社会が経て来た流動・変遷の姿。その記録」とありますが、あなたが知る、さまざまな歴史はどのように作られ、どう記録されてきたのか。そこには、どういうバイアスが含まれている可能性があるのか。
今回の講義をきかっけに、抽象度を変えながら、歴史を捉え直してみてはいかがでしょうか。
Vol.1 DNAより言語のほうが「民族の歴史」がわかる!?
──先生、今日は世界史についてお聞きしたいと思っております。
苫米地 世界史って言っても広いからね、どこの時代のどこの話って限定しないとできないよ。
──世界史といえば、やはりヨーロッパではないかと思っているんですけど、そのヨーロッパのとっかかりとして去年『ナショナル・ジオグラフィック』で「ヨーロッパ人はどこから来たのか?」といった特集があって、ヨーロッパ人をDNAで追っていってたんですが、こういうのはどうでしょうか?
苫米地 いや、そういう記事はよく見かけるけど、Y染色体は凄く変異するからほとんど意味ないよ。5世代も開くとY染色体は全然違うからね。その逆に、ある人とまったく同じY染色体を持っている他人が10万人、20万人いたりさ。そもそもチンパンジーと人間のDNAの差は1%ぐらいしかないんだよ。だから、ヨーロッパ人のDNAとか、アジア人のDNAとか言ったってほとんど意味がない。たぶん、その雑誌で書いてる人は特定のマーカーの差異を見てるんだろうけど、ゲノムの全情報からしたら人間はすべて同じだし、そもそも人種という概念にまったく意味がないからね。Evodemoとか、いまの遺伝学をやっている人たちは人種という言葉も使わないし、黄色人種、白色人種という概念もないしね。
──確かにそうですね。遺伝子的に白人、黒人、黄色人の違いがあると思うほうがおかしいですね。
苫米地 でしょ。まあ、細かくみればあるけど、それは個体差と大して変わらないから。なので、アジア人、ヨーロッパ人という概念そのものが時代遅れ。もちろんさ、日本人のルーツはモンゴルだとかっていうのはあるけど、それはわざわざマーカーを選ぶからで、2億ぐらいの中の3つを選んでその類似性を見ているわけだから、いくらでも細かく設定できるんだよ。インターネットなんかでよく見かける、日本人特有の遺伝子があったとかっていうのも同じだよね。
──Y染色体のハプログループで見ると日本人は固有の染色体がある、みたいなやつですね。
苫米地 あれだって特定のマーカーを見てるだけ。別のマーカーについてだったら日本人とバスク人は一緒だってことも言えたりするかもしれないんだから意味ないんだよ。先に主張があって、それに合うマーカーを探してるだけ。人種や種族って考え方を安易にする人が多いけど、それは簡単に差別につながるからね。
──アーリア人は優秀だとかにつながりますね。ということは遺伝子で見ないほうがいいんですね。う〜ん、そうすると何で見たらいいんでしょうか?
苫米地 だから、さっき「どこから来たのか?」って言ってたけど、そのテーマって「移動」でしょ。だったら、言語で見ていくというのはあるよ。言語のほうが民族の特徴を遥かに捉えているし、言語の場合はコンピュータで、「移動」の実態がシミュレーションできるんだよね。わかりやすく言うと人口1000人のBという村がありました。そのうちの300人が隣のA村と行き来ができていますと。そういう場合にはA村にもB村にも方言が生まれない。ところが、村同士の往来が300人未満だと方言が生まれるみたいな感じで言語の違いを人口の流入出量で見ていける。これって「移動」でしょ。
──まさにそのとおりですね。
苫米地 それがコンピュータ・シミュレーションになってるんだからまさにこれは学問。しかも、もう結果も出ていて、方言が生まれるか否かは人口の流出入の人口比に対するパーセンテージで決まるってことね。要は、村と村の間に谷や川があって、人の行き来があまりないと方言が生まれるし、村人同士の行き来があれば、距離が離れていてもあまり方言は生まれない。日本に方言が多いのは山や谷が多いからだってことがこれでわかるよね。ということは、言語をコンピュータ分析したほうが、人の移動は推測しやすくない? DNAよりも。特定の単語の変化の様子や、形態素とかで見ていったらたぶん見えてくると思うよ。
──確かに、言語学者は「馬」という単語のつづりの地域差を調べていました!
苫米地 馬の場合は古代から移動の手段として使っているわけだから直結してるよね。
──わかりました、言語ですね。ヨーロッパの場合ですと、インド・ヨーロッパ語族とかが広く分布してますが......。
苫米地 ただ、そういう言語学みたいなものってまだ新しい分野だから、それで歴史を紐解いていくっていうのは難しいと思うよ。
(Vol.2に続く)
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